救急救命室

救急救命室では、石のような強いハートと同じくらい、思いやりを持って患者に接することが非常に大切です。死に執着してはいられません。ここでの診察は風邪やインフルエンザなどとは異なり、外傷、交通事故、暴力など、現実的で非常に難しいケースです。速度超過による交通事故などの高エネルギー外傷は対応が困難です。夜間の救命チームに新しいトラウマ、ケガの患者が運びこまれ、命を救っているあいだ、また日が落ち街灯がつき始め夜が深まっていく、毎晩がこんな感じにすぎていきます。

私がここで診た最悪のケースは、高級ホテルの5階から飛び降りた酔った観光客でした。彼が地面に落ちたとき、彼の骨は完全に露出し、血があちこちに噴き出していました。それは非常に深い傷を負っている状態でした。彼は青ざめていて、何かつぶやいていましたが、それが何か理解できませんでした。我々は大量の血液と痛み止めを必要としました。血が溢れ出ている状況は血液感染の予防のため自分自身を守らなくてはならない私達にもとっても、危険な状態でした。また私は周りにいる傍観者やその場に立ち止まって写真を撮り、オンラインで投稿している人々を制止しなくてはなりませんでした。もしあなたが医師であるならば、あなたは救急対応要員です。現場にいる医師は、第一対応者(ファーストリスポンダー)であり、いわば船の船長となり、すべての責任者となります。

夜間対応では瞬時に考え、即座に対応しなくてはなりません。患者がけいれんを起こしている場合、それは熱性けいれんなのか?酔っているのか?彼はイソニアジド精神薬を服用したのか?迅速に診断する必要があります。特にベトナムでは様々な薬が乱雑に処方されており、また人々はそれがどのような薬なのかを知らずに服用する場合が多いのです。万が一救急ベルが鳴った場合、作業をすべて中断し、素早く看護師や医師へ引継ぎ、即座に救急車に乗り直ちに現場に出動します。

将来どんな事態が起こり得るかなど誰も知る由もありません。英語を話す患者が緊急事態に陥ったとき、彼らは運転手またはベトナム人に代わりに電話をするように頼むことがあります。しかし、ベトナム人は電話でそれほど多くの詳細を語ろうとしません。ある時、「誰かが腹痛で苦しんでいる」という情報を得ました。私たちが駆け付けたとき、すでにトイレで赤ちゃんを取り出さなくてはならないという状況でした。時刻は午前2時。2番目の子供をみごもる経産婦のイギリス人女性。破水した時、自宅で自力で出産しようと考えましたが、トイレは清潔ではなく、血が飛び散り、今にも赤ちゃんと胎盤が出てきそうです。でも誰が赤ちゃんと胎盤を受け取るんでしょうか。

母親は素直に救急隊員の指示に従いました。「いきんで!」そして赤ちゃんが飛び出しました。その間約20分の出来事です。それは私にとってベトナムで初めての自宅出産の立ち合いでした。もちろん、私の故郷であるフィリピンでは、床でもどこでも自宅出産のケースは多くあります。今回のケースでは赤ちゃんは元気に泣いて、健康状態も良好でした。胎盤を取り出し、へその緒を切って、母親に赤ちゃんを胸に抱かせて、においをかがせました。それから私たちは太陽が昇る前に、彼女に必要なケアを施しました。

ベトナムには文化的な違いによる大きな壁があります。彼らがベトナムでの生活をどのように認識しているかを理解する必要があります。誰かが亡くなった場合、たとえ患者が癌で亡くなったとしても、それは感染性なものではないにもかかわらず、部屋を滅菌する必要があることも理解する必要があります。さほど多くではありませんが、救急救命室で亡くなる方もいらっしゃいます。その家族は亡くなった方を家に連れて帰り、伝統的な方法で供養しようとします。

ここベトナムで、大量の死傷者事故がさほど多くないのは幸運なことです。私の専門は救急救命ですが、災害医療の専門でもあります。私の故郷では、時々テロが起こります。ある時、仕事から解雇されて暴走した警官が観光客を人質に取り、5人を殺害しました。雨の夜、私は当時研修医としてトレーニング中で、夜勤で働いていました。 ER全体が改装中であったため、非常に混雑していました。 5人が死亡、3人が重体、その他の人はうめき声を上げています。重傷者だけでなく、催涙ガスや爆傷による金属片やガラスが刺さっている患者も見られました。

別の大惨事は爆発によるものでした。誰かが検査センターの外に爆発物の入ったバッグを置いていたのです。約30人が当院に運ばれ、皆が苦しんでいました。大学1年生の学生が両足を失いました。もちろん、両親は嘆き悲しんでいました。彼女は震え、血圧が下がり、「先生、足の感覚がないんですが・・・」と尋ねていました。私は何も言うことが出来ませんでした。私は振り返り、「ドクター!」と叫びたい気持ちでしたが、当直の救急専門医は私でした。ここで私は自分自身の役割と責任について認識されられました。ベトナムではそのような事件はあまり発生していません。それはとても良いことです。しかし、万が一テロなどが発生した時を想定し、常に準備しております。

もし、深夜に緊急事態が発生した場合は、∗ 9999にお電話ください。即座に対応致します。家から、外から、ホテルからでもお電話ください。救急隊員が駆け付けます。あなたが今どこにいるのか、適切な情報を教えてください。そしてそこにたどり着くための最も簡単なルートを教えてください。可能であれば、誰かが1階のドアの外で待機してくれていると、アクセスカードがないと使用できないエレベーターなどで立ち往生しなくて済みます。私たちと電話が繋がったままにしておくことで、精神的にも感情的にも落ち着いて対処することができます。それが患者にとって必要なのです。たとえ深夜でも、私たちは的確な判断をしなくてはなりません。

緊急の場合、呼吸器疾患のある患者は優先的に救急救命室にて治療を受けます。最初の数分間は非常に忙しいです。IVラインの挿入、胸部ECG(心電図)、酸素の投与、レントゲンなどを行うため看護師が飛び回り、無数のライトが点滅し、たくさんの質問が飛び交います。それはすでに不安を感じている患者にとっても家族にとってもそれは過酷なことです。しかし、我慢してください。どのような状態なのかを知る必要があります。我々は患者さんに様々な質問をしなければなりません。それ以外のことは二次救命措置の際に行うとして、一次救命措置の際の聞き取りでは、最後に薬を摂取したのはいつか、最後に食べ物を口にしたのはいつか、5時間以内に何が起こったのかなど、多くの質問をすることでしょう。救急救命室は時間との闘いです。ですから、私たちが無情にも次から次へと質問しなくてはなりませんが、我慢してください。これが救急救命士の仕事なのです。私たちはあなたたちの命を救わなければなりません。

私たちの仕事は、昼夜問わず救急措置が必要な人々を救護することです。救急車の数も2倍にしました。そしてそれ以上に大切なことは、我々は地域に対して健康に対する教育を提供していることです。私たちはこのコミュニティをより健康的なものにし、人々が自らの健康をより意識するようになっていくと信じています。 ∗ 9999は非常に意欲的でかつ勇敢なプロジェクトです。救急車は高額かもしれませんが、それは地域社会にとって大きく貢献するものです。医療アクセスのよいホーチミンはより安全に暮らせる場所になると思います。

アランパラス医師、救急医療、ファミリーメディカルプラクティスホーチミン市