発熱について

子供が感染症にかかったときの典型的な症状の一つとして発熱が見られます。感染症と闘うために自然の免疫機構が働き、その一環として体温が上昇し、結果として怠さなどを引き起こすこともあります。子供の体温が上がると親は非常に心配し、できるだけ早く熱を下げようと色々な手を尽くします。この行為は時には結果的に、最善を尽くして看病しても症状を悪化させることに繋がることもあります。

まず第一に、発熱は病気ではなく、単なる症状の一つであるということを認識しておかなくてはなりません。子供は熱の症状に苦しんでいるかもしれませんが、身体が積極的に感染症と戦っているということの表れであり、それは良い兆候でもあります。 発熱を引き起こす要因は数多くあります。ウイルスや細菌による感染、場合によっては寄生虫による感染などです。また発熱はがんなどの深刻な病気によって起こる場合もあれば、別の病気の薬を服用した際に起こる場合もあります。発熱しているお子様をよく観察することは重要なことです。しかし心配しすぎる両親は熱を下げようと必死になります。時に不必要な投薬や治療が原因で引き起こされる発熱もあるのに、親は発熱が元の病気のせいだと思い込み、過剰な治療につながることもあります。

たとえば、2歳未満の子供の細気管支炎は、ほとんどがウイルスによって引き起こされます。ウィルスは抗生物質で治療できないことを親は知るべきですが、この病気は抗生物質で治療することはできません(実際、体内のウイルスを殺す薬はまだ開発されていません。) 逆に、細気管支炎に抗生物質を投与すると、ひどい咳や呼吸困難を引き起こす可能性があります。親によっては眠っている子供を起こし、熱を下げるために薬を与えたり濡れたタオルを使用したりします。 しかし実際は発熱中の子供が眠っているときは、神経系によって上手に管理されているので、眠っている子供を起こす必要はありません。 子供が発熱中に眠ることができるのは、状態が落ち着いているからなのです。もしそうでなければ、子供は目覚めてしまいます。また解熱剤を誤って使用している親もいます。解熱剤を使用する場合は、体温が38.5度以上の場合のみ効果があります。 それより低い場合に使用してもまったく効果がありません。 一部の母親は、子供の体温が上がることを恐れて解熱剤を与えようとしますが、実際には効果はありません。

子供に他にどのような症状が出ているか(鼻水、咳、下痢など)注意を払うことが重要です。 咳がひどく、発疹があり、呼吸が困難で発熱もみられる場合、または発熱が3日以上続く場合は、症状が深刻な場合があります。それが、子供を病院に連れて行くかどうか見極める重要なポイントでもあります。また生後3か月未満の乳児に発熱が見られる場合は、非常に危険な状態である可能性があるため、すぐに医師の診察を受ける必要があります。 生後3か月以上で特に症状が発熱のみの場合、子供に十分な休息と水分を与え、症状が治まるまで待つことが必要です。

発熱外来を受診しても、必ずしも薬を処方される必要はありません。 ベトナムのローカル病院の同僚から得た情報によると、子供が上気道感染症の症状(咳、鼻水、発熱など)のために医師の診察を受けると、抗生物質がわずかな病気にだけ効果があるという事実にも関わらず、99%の確率で抗生物質が処方されます。多くの医師は、子供を家に帰す際に薬を処方しなくてはならないという義務感を感じています。病気の子供を診察し薬を処方せずに家に帰すと、両親は非常に腹を立てることがあるからです。 残念ながら、この習慣がベトナムにおいて、その薬に対して抵抗性を持つ「薬剤耐性菌」を生み出す要因になっており事態は非常に深刻です。これは、緊急事態において抗生物質が効果を及ぼさないということに繋がり、命取りになることもあります。

抗生物質が街中の薬局で簡単に入手できるという現状が、この問題をより一層深刻化させています。子供を病院に連れて行きたくない親は、直接薬局や民間の診療所に抗生物質を買い求めに行きます。もし症状が数日以内に改善されない場合、親は子供を病院に連れて行くことを決定すると思いますが、その間抗生物質を服用したことにより病気の症状が変化し、医師が病気を診断するのをより困難にする可能性があります。私はしばしば、公立病院やクリニックに通うベトナム人の親たちに、本当に抗生物質が必要かどうかを医師に尋ねることはとても大切だと話すことがあります。 親がこの質問をした場合、医師はこの症例に抗生物質が必要かどうかを検討することになります。どのような場合においても、親が医師に薬を投与するように説得しようとすることは、薬の処方を義務化させ、反対に症状を悪化させることもあるので避けるべきです。時に、熱をさげるための唯一の方法は、ただ熱が下がるのを待つだけだから、です。

Truong HoangQuy医師-小児科医、ファミリーメディカルプラクティス ホーチミン市